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「これ以上は貸せないけど、うちのキャッシングカードローンでなら貸せる」
信用金庫の応接室で、同世代の担当者が言った。裏表のない、実直な人だった。悪気なんて一つもない。彼はただ、テーブルの上に残っている選択肢を並べてくれただけだ。
そのあと、彼はもう一つ言った。
「ご家族に借りたら?」
俺はその二つの言葉を、いまだに覚えている。借金の話をするとき、いつもこの部屋の景色から始まってしまう。
「悪いこと」だと決めたのは、たいてい他人の言葉だ
借金が悪いことかどうかを、俺は長いこと自分の頭で考えていなかった。考えていたつもりで、実際は他人の言葉を反芻していただけだ。
「借金する人とは無理」——この手のセリフを、誰かから浴びせられた経験がある人は多い。俺は人づてに何度も聞いた。配偶者に言われた人、親に言われた人、付き合っていた相手に言われた人。言われた側は、その一文を財布みたいに持ち歩くことになる。金額でも金利でもなく、あのときの声のトーンが残る。
だから「借金とは何か」という問いに、辞書の答えは役に立たない。金を借りて返す契約、それだけの話だ。問題は、契約の外側に貼り付いた他人の言葉のほうにある。
俺が回せるようになったのは、その二つを分けてからだった。
- 契約の中身=返せるか、いつ返し終わるか、原資はどこか
- 他人の言葉=返済計画に一円も影響しない情報
分けた瞬間、判断が急に軽くなった。逆に言えば、分けないうちは何度でも間違う。俺は間違ったほうの側にいた人間だから、これは説教ではなく実況だ。
全部の窓口に断られた日
信用金庫のあの一言にたどり着くまでに、俺は回れるところを全部回っていた。
日本政策金融公庫。地元の信用金庫。信用保証協会。保証協会には「毎月保証料を払っているんだから、直接見てもらえば融通が利くかもしれない」というネットの情報を頼りに行った。結果は、今の売上実績だと厳しい、だった。商工会議所は、すでに借入残高がある、売上と借入残高の比率がよくない、で断られた。区の緊急小口の制度にもやんわり打診したが、ハードルがあると言われた。困っている人が行くための区の窓口にも、臆せず行った。そこで返ってきたのは、これだ。
「借入があるので、支援金を拠出しても焼け石に水」
渋い顔だった。悪い人たちではない。彼らは彼らの基準の中で、正しく仕事をしている。ただ、俺の状態はその基準の外側にあった。それだけのことだ。
窓口を一つ回るたびに、時間と交通費と、少しずつ何かが減る。断られること自体より、「次はどこへ行けばいいのかが分からなくなる」ことのほうがきつかった。行き先のリストが尽きたとき、机の上に残っていたのが、冒頭のあの選択肢だった。
家族に言うのが、天地がひっくり返っても嫌だった
「ご家族に借りたら?」
これが一番現実的な提案だったのは、今なら分かる。金利ゼロ。審査もない。頭を下げればいい。それだけだ。
でも俺は、その道だけは選べなかった。大きい残高を抱えていて、ここまでピンチだと家族に正直に言うことが、天地がひっくり返っても嫌だった。絶対にバレたくなかった。
合理的に考えれば家族に頭を下げるのが最善だと、俺は分かっていた。それでも選ばなかった。人間の判断はそういう順番で動くことがある。俺の場合は、特性も関係していたと思う。目の前の恥を回避するほうに、身体が勝手に動く。
この記事を読んでいる人の中には、同じ場所で止まっている人がいるはずだ。金がないことより、それを人に言うことのほうが怖い。その怖さは、返済計画の表には一行も出てこないのに、選択肢を確実に減らしていく。
俺はその怖さに従って、いちばん高い道を選んだ。
キャッシュバック目当てで50万円借りて、キャッシュバックは取れなかった
信用金庫のカードローンは借りなかった。代わりに選んだのが、アフィリエイトの自己申込(セルフバック)経由で、カード会社のキャッシングを50万円フルで借りる、という道だ。
理由は一つ。3万円以上のキャッシュバックがあったからだ。
利率15.8%の普通のキャッシングは、どう考えても借りられない。でもキャッシュバックがあるなら、実質の負担は下がる。そう自分に説明した。今から読み返すと、これは計算ではなく免罪符だ。「借りる」という決断に、自分で許可証を発行しただけだった。
オチがある。
そのキャッシュバックには「事前に借入額を指定する」という要件があった。金がなくて判断力を失っていた俺は、要件を満たさないまま50万円を借りた。結果、キャッシュバックは一円ももらえなかった。
ひっかけられた、というのが正直な感想だ。ただ、要件は最初から書いてあった。読まずに借りたのは俺だ。そう思ったところで結果は変わらない。手元に残ったのは50万円の借入と、年15.8%(当時)の利息と、免罪符が破れた感触だけだった。
借入の実績はこうだ。2024年11月に50万円。2025年9月に8万円。
それでも15ヶ月で返し終えた。やったことは一つだけ
返済は2024年12月に始まって、2026年2月で終わった。26回、月でいえば15ヶ月分にまたがっている(2026年9月時点で、この口座は動いていない)。
途中で何か特別なことが起きたわけではない。収入が跳ねたわけでもない。やったことは一つだけだった。
返す日を、借りた直後に決めた。
約定の引き落としだけに任せると、リボ型の返済は延々と続く。だから約定とは別に、金が入った月は繰上返済を突っ込んだ。26回のうち、約定の引き落としが15回、自分から振り込んだ分が11回だ。金額はバラバラでいい。1万でも3万でも、突っ込んだ分だけ元金が減って、次の月の利息が減る。
続けられたのは、順番を変えたからだ。
- 先に「終わる日」を決める → 逆算して毎月の突っ込み額が決まる → 余った分で生活する
- 先に生活する → 余ったら返す → 余らないので終わらない
俺は最初の15年、ずっと後者だった。前者に切り替えたのは、この50万円のときが初めてだ。皮肉な話だが、いちばん高い金利の借入で、いちばんまともな返し方を覚えた。
利息が結局いくらだったのかは、明細を突き合わせないと確定できないので、ここには書かない。確定したら、この段落に実額を足す。
俺が「借りていい」と決めた3つの条件
あの一件のあと、俺は自分用の判定表を作った。3つとも満たしたときだけ借りる。1つでも欠けたら借りない。
1. 返す日が見えている
「いつか返す」は条件を満たさない。カレンダー上の月が言えるかどうかだ。2026年2月、みたいに。日が言えないということは、返済計画ではなく願望を持っているということになる。
2. 返す原資が確定している
給料、報酬、入金予定。すでに存在するか、契約上入ることが決まっている金だけを原資と呼ぶ。「たぶん来月は稼げる」は原資ではない。俺は昔、これを原資に数えて何度も足を踏み外した。
3. 利息が「借りない損」より小さい
借りないことにも金額がつく。仕事に行けない、資格が失効する、医療費が倍になる、督促が延滞金に化ける。その金額と、支払う利息を並べて比べる。利息のほうが小さいなら、借りるのは経済的にまともな判断だ。ここを比べずに「借金は悪」で止めると、より高い損を選ぶことになる。
逆に、この3つのどれかに当たったら借りない
1. 前の借入がまだ残っている
新しい借入で古い借入を撫でる形になった時点で、返済ではなく延命になる。俺が50万円を借りたときは、まさにこれだった。だから条件2で言うと、俺自身は当時「借りてはいけない側」にいた。
2. 返す原資が未定
原資が決まっていない借入は、返す日が決まらない。返す日が決まらない借入は、終わらない。
3. 誰かの言葉から逃げるためだけに借りる
これが一番危ない。家族に知られたくない、パートナーに言われたくない、職場にバレたくない。俺の50万円は、半分以上これだった。恥を1日先送りするために、利息を15ヶ月払った計算になる。
同じ恥を持っている人間として言うが、逃げるために借りた金は、逃げた分だけ高くつく。俺はその請求書を見た側だ。
| 区分 | 条件 | 満たす例 | 満たさない例 |
|---|---|---|---|
| ◯ 借りていい | 1. 返す日が見えている | 「2026年2月」のようにカレンダー上の月を言える | 「いつか返す」としか言えない |
| ◯ 借りていい | 2. 返す原資が確定している | 給料・報酬・入金予定など、すでに存在するか契約上入ることが決まっている金 | 「たぶん来月は稼げる」という未確定の見込み |
| ◯ 借りていい | 3. 利息が「借りない損」より小さい | 仕事に行けない・資格失効・医療費が倍・延滞金化など「借りない損」のほうが利息より大きい | 借りない損を比べずに「借金は悪」で思考を止める |
| ✕ 借りない | 1. 前の借入がまだ残っている | 新しい借入で古い借入を撫でる形になる(返済でなく延命) | 前の借入が残っていない |
| ✕ 借りない | 2. 返す原資が未定 | 原資が決まっていない=返す日も決まらない | 給料・報酬など原資が確定している |
| ✕ 借りない | 3. 誰かの言葉から逃げるためだけに借りる | 家族に知られたくない・パートナーに言われたくない・職場にバレたくない、が動機のすべて | 恥の回避が借りる動機に含まれない |
「その日」ごとの話は、別の記事にまとめてある
条件3の「借りない損」は、状況によって金額がまったく違う。だからケースごとに分けて書いた。自分の状況に近いものから読んでほしい。
- 車検が切れると日給が消える人へ(近日公開)
- 転職の初月、給料日までの45日をどう渡るか(近日公開)
- 退院のとき、窓口でいくら払うことになるのか(近日公開)
- 滞納を放置すると、延滞金でいくら増えるのか(近日公開)
- 犬の手術費を即日どうするか(近日公開)
- 遠征費・交通費が先払いで消えていく人へ(近日公開)
- 親が亡くなったあと、請求書だけが届くとき(近日公開)
どれも「借りろ」という記事ではない。借りない手段から順に並べてある。公的な猶予や減免で済むなら、それがいちばん安い。
最後に。いま返済が止まりかけている人へ
ここまでは「借りる側」の話をしてきた。でも、この記事に着地する人の中には、もう借りる段階を過ぎている人がいる。
- 任意整理の途中で、約束した額が払えなくなりそうだ
- 引き落としが1回落ちた。次も落ちそうだ
- 督促の封筒を開けずに積んでいる
俺が言えるのは一つだけだ。止まってから連絡するより、止まりそうな時点で連絡するほうが、選べる手が多い。
整理中に返済が難しくなったときの立て直し方は、状況によって変わる。減額の再交渉が通ることもあるし、別の手続きに切り替えたほうが早いこともある。どちらにしても、判断材料を持っているのは自分ではなく、実務をやっている側だ。俺があのとき窓口を全部回ったのと同じで、まず並べてもらうところからしか始まらない。
一人で表計算とにらみ合っている時間が長いほど、延滞金は増える。それだけは数字で決まっている。
ひとつだけ、相談先の線を書いておく。司法書士が交渉を代理できるのは、1社あたりの債権額が140万円以下の案件に限られる(認定司法書士)。それを超える借入がある人は、弁護士に相談する側になる。どちらに当たるかは、借入先ごとの残高を並べれば自分で分かる。相談は無料で、申し込みはフォームからで、結果はその人の状況で変わる。
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借金が悪いことかどうかは、たぶん一生決着しない。俺は決着をつけるのをやめて、条件3つの表に置き換えた。表のほうは、他人の言葉が一行も入らないぶん、扱いやすい。

