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パチンコ、競馬、競艇、FX。全部やった。
そのうち一番深く俺の生活に入ってきたのは、数字の上では一番マシなはずのFXだった。
還元率という言葉がある。賭けた金のうち、どれだけ客側に戻ってくるかの割合だ。ネットで「ギャンブル 還元率」と検索すると、パチンコが85%、競馬が75%、宝くじが45%、みたいな表がいくらでも出てくる。その表でいくと、FXは一番上に来る。胴元が持っていくのはスプレッドだけだからだ。
その一番上のやつで、俺は一番負けた。
しかも、パチンコは3回でやめられた。FXはやめられなかった。
還元率では、この順番はどうやっても説明できない。だから調べた。法律の条文まで見に行った。そこで、話が全部ひっくり返った。
還元率の数字を、法律の条文で確かめた
まず断っておくと、ネットに転がっている還元率の表は、法律に書いてある数字と、業界の推計値が混ざっている。同じ表に並んでいるので気づきにくいが、この2つは重さが全然違う。
法律に書いてある方から見ていく。
競馬は競馬法の第8条第1項に、こう書いてある。売った金額の「百分の七十以上農林水産大臣が定める率以下」を、当たった人に配る、と。つまり70%が下限だ。これより下には、法律上できない。
競輪も同じ形だ。自転車競技法の第12条に「百分の七十以上経済産業大臣が定める率以下」とある。
競艇だけ数字が違う。モーターボート競走法の第15条は「百分の七十五以上国土交通大臣が定める率以下」だ。公営競技の中で、競艇だけが下限75%で、5ポイント高い。
宝くじは、書き方がひっくり返る。当せん金付証票法の第5条第1項はこうだ。
当せん金付証票の当せん金品の金額又は価格の総額は、その発売総額の五割に相当する額を超えてはならない。
「超えてはならない」。上限だ。 公営競技は「これ以上戻せ」と書かれているのに、宝くじだけは「これ以上戻すな」と書かれている。半分より多くは戻ってこないことが、法律で決まっている。
そしてパチンコ。ここが調べていて一番意外だった。
風営法には、還元率の規定が1つもない。 条文を全部見たが、「還元率」も「払戻」も一度も出てこない。あの「パチンコの還元率85%」は、法律の数字ではなく業界の推計値だ。競馬の70%と同じ表に並べるのは、本当は乱暴な話だった。
しかも、この85%には読み方の注意がある。店の売上総額に対して、客全体にいくら戻ったかの比率であって、俺が1万円入れたら8,500円返ってくるという意味ではない。誰かが大勝ちした分も、この85%の中に入っている。パチンコを研究している大阪商業大学の谷岡一郎教授は、営業全体の平均的な控除率を10〜15%と見ている。
FXには、還元率という概念そのものがない。相手がいて相対で売買しているだけで、胴元が総取り分を配る仕組みではないからだ。取られるのはスプレッドと手数料だけになる。
| 対象 | 法律の書き方 | 客に戻る率 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 競馬 | 「百分の七十以上…定める率以下」=下限が決まっている | 70%以上 | 競馬法 第8条1項 |
| 競輪 | 「百分の七十以上…定める率以下」=下限が決まっている | 70%以上 | 自転車競技法 第12条 |
| 競艇 | 「百分の七十五以上…定める率以下」=公営で1つだけ高い | 75%以上 | モーターボート競走法 第15条 |
| 宝くじ | 「発売総額の五割に相当する額を超えてはならない」=ここだけ上限 | 50%まで | 当せん金付証票法 第5条1項 |
| パチンコ | 還元率の規定が1つもない(風営法に「還元率」「払戻」の語なし) | 推計85%前後 | 業界推計(法定値ではない) |
| FX | 還元率という考え方そのものがない(取られるのはスプレッドと手数料) | 数字上は最小 | — |
条文は2026年8月19日にe-Gov法令検索で確認。パチンコの85%は業界推計で、店の売上総額に対して客全体へ戻った比率。1万円入れて8,500円返る意味ではない。
数字だけ見れば、FXが一番マシだ
こうやって並べると、順位ははっきりする。
宝くじが一番重い。半分は戻ってこないと法律に書いてある。次に公営競技で、25〜30%が持っていかれる。パチンコは推計で15%前後。FXはスプレッドだけだから、コンマ何%の世界になる。
取られる率でいえば、FXの圧勝だ。
「だからパチンコをやめて投資を始めよう」と書いてある記事を、俺は何本も読んだ。理屈は通っている。同じ金を張るなら、取られる率が低い方がいいに決まっている。
俺もそう思った。そして一番深いところまで持っていかれた。
一番マシな数字のやつで、一番溶かした
数字を出す。
FX・海外FX・暗号資産の純損失:−616万円
うち海外FXが−253万円、DMM証券1社だけで−264万円
一番溶けた年だけで−509万円
計測日:2026年7月5日時点/出典:9年分の口座取引データ(8,878件)を業者別に差し引き集計
昔から俺が「FXで268万負けた」と言っていたのは、DMM証券1社分の話だった。全部の口座を足したら、その2倍以上あった。
(このときの一部始終はFXで借金500万。円安の読みは当たったのに300万溶かした話に書いた。ロットの誤認で、想定の10倍のサイズを持っていた)
パチンコで負けた額は覚えていない。覚えていないくらいの額しか負けていない。3回で終わったからだ。
パチンコは3回でやめられた
大学1年のとき、友達に誘われて打った。2、3回だ。
全部負けた。ビギナーズラックというものが、俺には一度も来なかった。
そしてもう1つ。音と光と空気が、異常だった。 これが本当に嫌だった。座っていると頭が痛くなってくる。隣の台の音が割れて聞こえる。煙草の匂いと、床の感じと、店員の声の張り方。とにかく嫌だった。長くはいられなかった。
だから行かなくなった。意志の力でやめたわけじゃない。行くのがしんどかっただけだ。
今になって思う。あれで助かった。パチンコは、まず店まで行かないと打てない。そして行ったら行ったで、俺には耐えられない場所だった。二重に止められていた。
アプリが来て、授業中に買うようになった
大学の後半で、競馬と競艇をやった。ちょうどスマホのアプリが出てきた頃だ。
競馬場にも競艇場にも行ったことはある。でも実際に買っていたのは、アプリの方が圧倒的に多かった。
現地に行けなくなったんじゃない。行かなくてよくなった。
そうなると何が起きるか。俺は授業中にもちょくちょく買っていた。教室から買える。並ばなくていい。誰にも見られない。音も光もしない。
これも負けた。ただ、パチンコのときと違って、俺はここでやめなかった。嫌な感じが1つもなかったからだ。
同じころ、株でも溶かしている(株で借金一歩手前だった話)。画面で完結するものばかりだ。
このころ、期待値が1を超える買い方を組もうとしたことがある。組み合わせを工夫すれば理論上は勝ち越せるはずだ、という話を読んで、本気で考えた。結局は形にならなかった。数学の力が足りず、コンピュータのこともよく分かっていなかった。
今は、あれを機械にやらせる商品が普通に売られている。当時の俺が喉から手が出るほど欲しかったものだ。だからこそ、その手のものを見ると身構える。
そしてFXには、閉店がなかった
FXはスマホとPCでやる。
四六時中だった。
半年くらいそうなっていた時期が、2回ある。1回目が2019年、2回目が2024年から2025年にかけて。合わせて1年くらいだ。
睡眠時間が1時間という日があった。夜中、パソコンを抱きかかえたまま、心臓がバクバクしたまま寝ていた。
パチンコ屋には閉店がある。競馬にも競艇にも、レースが終わる時刻がある。
FXには、それがなかった。
俺を止めるものが、どこにも1つもなかった。店員も、閉店時刻も、レースの終わりも、隣の台の音も、床の匂いも。全部なくなって、スマホの中に相場だけが残った。
2回目に減った額が小さいのは、回復したからじゃない
口座の記録を年ごとに見ると、1回目の2019年は、その1年で509万が消えている。
2回目は、2024年が−58万、2025年は+5万。 差し引き50万ちょっとだ。1回目の10分の1しかない。
これを見て「2回目は軽かった」と読みたくなる。俺も一瞬そう思った。違う。
入れる金が、もう無かっただけだ。
2019年は入れられる金があった。事業の売上も、借りた金も、全部入れた。あのとき手元にあったものを、順番に画面に入れていった。だから509万という数字になる。
2回目は、入れるものが残っていなかった。それだけの話で、やっていることは1回目と同じだった。夜中に画面を見て、寝ないで、心臓がバクバクしている。半年間、同じことをしていた。
減ったのは負けた額であって、俺の状態じゃない。
ここが怖いところだと思う。金が無くなると、通帳の上では被害が小さくなる。数字は勝手に良くなっていく。 その裏で、時間は1回目と同じだけ持っていかれている。
法律が本当に縛っているのは、率じゃなくて時間だった
調べていて、一番驚いたのがこれだ。
パチンコの遊技機には、国家公安委員会規則で細かい性能の基準が決まっている。その別表第4に、こういう規定がある。
- 試射試験を1時間やったとき、出た球は打った球の3分の1を超え、2.2倍未満であること
- 4時間なら、5分の2を超え、1.5倍未満
- 10時間なら、2分の1を超え、3分の4未満
数字を並べると分かる。時間が長くなるほど、上と下の幅が閉じていく。
1時間なら2.2倍まで跳ねられる。10時間打つと、最大でも1.33倍までしか増えない。その代わり、最悪でも半分は戻る。
さらに、発射装置には「1分間に100個を超える遊技球を発射することができるものでないこと」という決まりまである。入れられる速さにも上限がある。
つまり法律が決めているのは、還元率の値じゃない。「長くやるほど、勝ちも負けも1に近づけろ」という設計そのものだ。 そして規則が想定している一番長い試験は10時間。ホールの営業時間とだいたい同じだ。パチンコは、1日で終わることを前提に作られている。
FXにはこれが1つもない。
1分間にいくら入れられるかの上限がない。レバレッジで、元手の何倍でも一度に張れる。時間が延びたときに幅が閉じる仕組みもない。時間が延びれば延びるほど、幅は開いていく。 そして24時間開いている。
| 比べるところ | パチンコ | FX |
|---|---|---|
| 1分あたりに入れられる量 | 上限あり 遊技球100個/分を超えて発射できない |
上限なし レバレッジで元手の何倍でも一度に |
| 1時間やったとき | 出た球は打った球の0.33〜2.2倍 | 決まりなし |
| 4時間やったとき | 0.40〜1.5倍(幅が閉じる) | 決まりなし |
| 10時間やったとき | 0.50〜1.33倍(さらに閉じる) | 決まりなし |
| 想定されている最長時間 | 10時間=閉店がある | ない。24時間開いている |
| 取られる率 | 推計85%前後 | スプレッドのみ=数字上は一番マシ |
パチンコ側の数値は遊技機の認定及び型式の検定等に関する規則(昭和60年国家公安委員会規則第4号)別表第4の試射試験の規定。2026年8月19日にe-Gov法令検索で確認。
「還元率で選ぶ」という考え方が、一番危ない方を選ばせる
ここまで書いてきて、自分がやったことの形がやっと分かった。
俺は「取られる率が低い方が賢い」と思って動いた。その基準で選んだ結果、自分を止めるものが1つも付いていない方を選んでいた。
還元率は、1回ごとの取り分の話だ。何回やるか、何時間やるか、いつやめるかについては、何も言っていない。そして俺が溶かしたのは、1回ごとの取り分ではなかった。回数と時間だ。
2回目の半年が、それをはっきりさせた。入れる金が尽きても、時間の方は同じだけ持っていかれる。
パチンコの15%は、10時間で店が閉まる前提の15%だ。FXのコンマ何%は、24時間・無制限に入れられる前提のコンマ何%だ。この2つを同じ表に並べて「FXの方がマシ」と言うのは、たぶん間違っている。
だから「パチンコをやめて投資へ」という言い方を、俺は素直に受け取れない。取られる率だけを見て乗り換えると、俺と同じところに来る。
それぞれの数字を、もっと細かく見たい人へ
- パチンコの還元率85%は法律の数字じゃない|規則が決めているのは時間だった
- 宝くじの還元率は法律で上限50%|令和6年度の実際は46.5%だった
- 競馬の還元率は式別で違う|単勝80%・3連単72.5%・WIN5 70%の理由
- 競艇の還元率は公営で一番高い|法律に「75%以上」と書いてある
- パチンコで勝てない理由|規則の条文を読むと「長く打つほど1に近づく」
もう借金まで来てしまった人へ
ここまで読んで、他人事じゃない人がいると思う。
夜中に画面を見ている時間があって、寝ていないなら、もう還元率の話じゃない。俺もその位置にいた。あのとき俺に必要だったのは、次の勝ち方じゃない。止まることだった。
まず、金の話より先にこれを書いておく。止まらない状態そのものは、借金とは別に相談先がある。 各都道府県の精神保健福祉センターに、ギャンブル等依存症の相談窓口が置かれている。費用はかからないし、家族だけで相談することもできる。俺は当時これを知らなかった。
そのうえで、返済の方が先に苦しいなら、こっちだ。
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俺は無料相談まで行って、結局は任意整理を選ばずに返している(親に言えない借金500万を、任意整理しないで返している全記録)。だから「整理しろ」とは書かない。費用がいくらかかるのかだけ先に知りたいなら、任意整理の費用相場と内訳にまとめてある。ただ、総額がいくらになるかを人に言ってもらうまで、俺は自分の借金の全体像を一度も見ていなかった。それだけは先にやった方がいい。

